死して恋ふ ~幽霊弁護士の復讐婚約~

死して恋ふ ~幽霊弁護士の復讐婚約~

渡り雨 · 完結 · 15.3k 文字

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紹介

死んでから三年、私はずっと彼のそばを離れられずにいた。

強欲で腹黒い弁護士、林田賢。彼がこれ以上、悪の道に進まぬよう見張っているのだと、自分に言い聞かせて。

だが、私を殺した犯人が出所した日、私は知ってしまった。三年間憎み続けたこの男が、血の復讐に身を投じていたことを。

そして、何よりも心を揺さぶられたのは、彼が金庫の奥から取り出した婚約指輪。——三年前、私に贈られるはずだった、あの指輪を。

私が命を落としたあの雨の夜。彼は正義に背を向けていたのではなかった。ただ、私のために未来を準備していてくれただけだったなんて…。

法廷では敵同士、けれど運命は私たちを恋人として結びつけていた。

真実がすべて明かされた今、本当に救済を必要としていたのが誰だったのか、痛いほどわかる。

チャプター 1

東京の夜。林田賢は法律事務所の革張りの椅子に座り、ネクタイを緩めながら、向かいにいる若い女性弁護士を見ていた。

「林田先生、この案件は……密に連携する必要がありそうですね」

女性弁護士はわざと声を潜め、わずかに身を乗り出す。そのせいで、豊かな胸の丸みが露わになりかけていた。彼女は競合事務所から来たエリートで、今夜の『連携』には明らかに下心がある。

オフィスのデスクには分厚い案件資料が置かれているが、今この瞬間に仕事に集中できる者など誰もいない。薄暗い照明が艶めかしい雰囲気を醸し出し、女性弁護士の眼差しはますます挑発的になっていく。

「確かに、深く……交流する必要がありそうだな」

林田は眉を上げ、磁性を帯びた声で誘うように言った。

二人の距離がますます縮まろうとした、その時——。

バサッ!

全ての書類が突然デスクから舞い上がり、本が重々しく床に叩きつけられ、凄まじい音を立てた。

室内の温度が急激に下がり、女性弁護士は骨まで凍みるような寒気を感じる。

「な、何なの?」

彼女は恐怖に怯えながら辺りを見回した。

目に見えない声が宙に響く。

「また一人、私に怖がって逃げ出すわね!」

女性弁護士は顔面蒼白になり、全身をわなわなと震わせた。

「事務所に幽霊が!」

彼女は悲鳴を上げてドアから飛び出し、ハイヒールの音が廊下にカツカツと響き渡った。

林田は何事もなかったかのように襟元を整える。

「ふん、なかなか正義感の強い幽霊じゃないか」

空中で得意げな笑い声が聞こえた。

女性弁護士が去ると、室内の温度は次第に元に戻っていく。

半透明の人影がゆっくりと姿を現した——それは佐倉モリ、美しい女幽霊だ。彼女は得意満面といった様子で来客用の椅子に腰掛けていた。

「今月で何人目?」

モリは足を組み、達成感に満ちた口調で尋ねる。

林田はうんざりしたように溜め息をついた。

「三人目だ。俺に三年間禁欲しろとでも言うのか?」

「今のあなたはずいぶん清廉潔白じゃない。昔みたいに腹黒くなくて」

モリは冷ややかに笑う。

「収入は減ったが、生きている意味が感じられなくなった」

林田は両手を広げ、その目に一瞬の疲労がよぎった。

モリの表情が少し和らぐ。

「昔はあんなに頻繁に彼女を替えていたくせに」

「体は元気になったが、心が死んだ」

林田は苦笑しながら首を振った。

二人は束の間の沈黙に陥った。このような会話は三年間、最初の激しい口論から今の日常茶飯事へと、何度も繰り返されてきた。

「知ってる?」

モリが突然口を開いた。その声には複雑な感情が入り混じっている。

「時々、私たちが生前どんな関係だったか忘れそうになるの」

林田は彼女を見つめ、その眼差しが深みを帯びた。「法廷での宿敵だ」

記憶の光景が瞬時にフラッシュバックする——。

東京地方裁判所第三法廷。荘厳で静まり返っている。

若き日の佐倉モリ弁護士が原告席の前に立ち、医療事故の被害者のために熱弁をふるっていた。

「被告企業は薬の副作用が深刻であることを知りながら市場に投入しました。これは生命に対する極度の軽視です! 林田弁護士がこのような企業を弁護するなど、鬼に金棒を渡すようなものだ!」

向かいに立つ林田賢は冷静沈着、一切弱みを見せない。

「異議あり! 裁判長、ご明察ください。原告側が提示した証拠の連鎖は不完全であり、直接的な因果関係を証明するには至っておりません」

裁判官が法槌を叩く。

「弁護側、関連証拠を提示してください」

林田は落ち着き払って一枚の書類を取り出した。

「これは厚生労働省の正式な認可書類です。全ての手続きが合法的に行われたことを証明しています」

その時のモリの眼差しは、怒りと無念に満ちていた。

「あの時から、あなたは金のために良心を売り渡す腹黒弁護士だと思ってた」

モリの声が林田を現実に引き戻す。

林田は苦笑した。

「そうか? あの頃のお前は、俺を相当憎んでいただろう」

「憎むどころじゃないわ」

モリの眼差しが鋭くなる。

「あなたはいつも法の抜け穴を見つけて、悪事を働いた企業を裁きから逃れさせていた。当時、私は思ったわ。この世になんて良心のない人間がいるんだろうって」

「だから俺を止めようと?」

「だからあなたを打ち負かそうと決めたの」

モリは訂正した。

「残念ながら、私にはもうその機会は永遠にないけど」

彼女の声は急に翳りを帯びた。自らの死を思い出したからだ。

あの雨の夜、薄暗い駐車場。

数人の黒服の男たちに囲まれ、棍棒が雨のように降り注いだ。死の間際、彼女は友人から送られてきた一枚の写真を受け取った——林田賢が六本木の高級料亭で、例の企業の重役たちと酒を酌み交わし、談笑している写真だった。

『やっぱり金のためなら何でもする男なのね』

モリの声には、三年間続いている苦痛が滲んでいた。

林田の表情が複雑に歪む。

「あの日……」

彼は何かを説明しようとしたが、言葉は喉元で止まってしまった。

ピピピッ——。

林田のスマートフォンのニュース速報が鳴った。

画面に社会ニュースがポップアップ表示される。

『三年前の悪質傷害事件、参加者の山本翔が本日刑期満了で出所』

写真には、丸刈りで目つきの鋭い、整った顔立ちの男が写っていた。オレンジ色の囚人服を着ている。

モリはその写真を見た瞬間、全身が凍りついた。

あの顔を、彼女は永遠に忘れることはない。

まさしく彼が、あの男たちに指示して、自分を殴り殺させたのだ。

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三兄:「新薬の開発が遅々として進まないのはなぜだ?」――彼女が治験をしなくなったからだ。
四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。

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六年間、身を粉にして尽くしてきた日々は、何の意味もなかったのだ。

絶望の中で目にしたのは、かつて母が手にした科学界の最高栄誉であるトロフィー。
その輝きが、私に本来の自分を思い出させた。

私はエプロンを脱ぎ捨て、白衣を纏う。
もう誰かの妻でも、母でもない。一人の科学者として、世界を驚かせるために。

数々の賞を総なめにし、頂点に立った私を見て、元夫は顔面蒼白で崩れ落ちた。
震える声で私の名前を呼び、足元に縋り付く彼。

「行かないでくれ……君がいないと、俺は……」

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